メディカルライブラリー
更新日|2016.06.02

― 脂質異常症に関して ―

私たちの血液の中には、コレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)、リン脂質、遊離脂肪酸といった脂質と呼ばれる物質が含まれています。脂質は、細胞膜やホルモンの材料となったり、エネルギーの貯蔵庫になるなど、私たちの体の機能を保つために大切な働きをしています。

通常、脂質は、肝臓で作られたり食事からとり込まれたりして、血液中に一定の量が保たれるように調節されています。脂質異常症(高脂血症)は、体の中で脂質の流れがうまく調節できなくなったり、食事から体の中に入ってくる脂質の量が多くなりすぎたりして、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)やトリグリセライド(中性脂肪)が多くなりすぎている状態、またはHDLコレステロール(善玉コレステロール)が少ない状態が続く病気です。

脂質異常症(高脂血症)をほうっておくと、血管の動脈硬化が少しずつ進んでいき、やがて心筋梗塞や脳卒中などの深刻な病気を引き起こしかねません。

動脈硬化には、さまざまな病気や生活習慣などが関係していますが、脂質異常症(高脂血症)は動脈硬化ともっとも関係の深い病気のひとつです。したがって、血液中の脂質の値を測って、常にこれらを適正な値に調節していくことは、動脈硬化の予防のためにとても大切です。

なお、脂質異常症は、以前は「高脂血症」と言われていました。しかし脂質のひとつであるHDLコレステロール(善玉コレステロール)は高いことが望ましく、この値が低いときに病気と診断されます。このことをふまえて、2007年より「高脂血症」は「脂質異常症」という病名に変わりました。ただし、「高脂血症」という呼び方がなくなったわけではありませんので、病院・診療所や薬局で「高脂血症」と診断されたり、「高脂血症の薬」と説明されたりすることもあるでしょう。

脂質異常症の種類

脂質異常症は、その原因によって「原発性高脂血症」と「二次性(続発性)高脂血症」の2つに分けられます。

また、異常値を示す脂質の種類によって「高LDLコレステロール血症」「低HDLコレステロール血症」「高トリグリセライド血症」にも分けられますが、一人の患者さんが複数のタイプをあわせ持っていることもあります。

原発性高脂血症

遺伝によって発症する脂質異常症で、はっきりした遺伝子で起こるものも、まだ遺伝子が同定されていないものもあります。

原発性高脂血症のひとつである「家族性高コレステロール血症」は、遺伝が強く関係しており、生活習慣とほとんど関係なく起こります。

二次性高脂血症

他の病気や薬が原因となって起こるタイプの脂質異常症です。原因となっている病気を治療したり、可能ならば薬を変えたりやめたりすることで、脂質異常症を改善することができます。

原因となる病気には、甲状腺機能低下症や肝臓病、腎臓病、糖尿病などが、原因となる薬には、ステロイドホルモン剤や利尿薬、避妊薬などがあります。

高LDLコレステロール血症

動脈硬化に関係が深いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いタイプの脂質異常症です。

低HDLコレステロール血症

動脈硬化を防ぐ働きを持つHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低いタイプの脂質異常症です。

高トリグリセライド血症

動脈硬化と関係が深く、急性すい炎とも関係があるトリグリセライド(中性脂肪)が高いタイプの脂質異常症です。

脂質異常症の診断

脂質異常症は、空腹の時に採血した血液の中のLDLコレステロールHDLコレステロールトリグリセライド(中性脂肪)の値によって診断されます。この3つの脂質の値のいずれかが、下の表の基準値にあてはまると、脂質異常症と診断されます。

気をつけたいのは、この診断基準は薬による治療を始める基準ではないという点です。薬を飲む必要性があるかどうかは、脂質の値のほかに、他の病気があるかどうかなどを考え合わせて決められます。

体内での脂質の動き

脂質異常症がなぜ起こるかを理解するために、まずは体の中で脂質がどのように動いているのかを理解しましょう。

脂質は、私たちの体の機能を保つために大切な働きをしています。コレステロールは、細胞の材料となって私たちの体を作るという大きな役割を持っているほかに、ホルモンや胆汁酸の材料にもなっています。トリグリセライド(中性脂肪)は、糖やタンパク質の2倍以上の熱量を出すエネルギー源として働いています。

脂質には、食事から体内に吸収されるものと、肝臓や腸などで作られるものがあり、これらは、その役割を果たすために、血液の流れに乗って全身の細胞に運ばれる必要があります。しかし、脂質はそのままの状態では血液に溶け込むことができないため、タンパク質などの物質とともに「リポ蛋白」という粒子になって血液中に存在しています。リポ蛋白には、カイロミクロンやVLDL、LDL、HDLなどの種類があり、それぞれの役割を持って、全身を巡っているのです。

コレステロールは、リポ蛋白のひとつであるLDLによって体の隅々まで運ばれ、細胞の中に取り込まれます。LDLに含まれるコレステロールをLDLコレステロールと言います。

LDLの構造

コレステロールには、脂肪酸と結合したコレステロールエステルと、脂肪酸と結合していない遊離型コレステロールの2種類があります。
LDL中のコレステロールエステルと遊離型コレステロールをあわせたものをLDLコレステロールと言います。

細胞に運ばれたコレステロールが利用しきれずに余っている場合には、HDLの働きによって肝臓に戻されます。HDLに含まれるコレステロールをHDLコレステロールと言います。肝臓に戻ってきたコレステロールの一部は、胆汁酸に変化して十二指腸に排出されますが、その多くは腸で再び吸収され、また肝臓に戻ってきます。

体内のコレステロールのうち、食物から吸収される量は、体内で作られる量の1/3くらいです。健康な状態であれば、コレステロールを多く含む食事をとっても、体内で作られるコレステロール量が減るため、体内のコレステロールの量は一定に保たれます。

病気のしくみ

遺伝やさまざまな病気、肥満、コレステロールの多い食事を続けることなどによって、HDLによるコレステロールの運搬がうまく働かなかったり、コレステロールの排泄や再吸収のシステムに支障が生じたりすると、高LDLコレステロール血症や低HDLコレステロール血症が引き起こされます。

LDLコレステロールは、組織に運ばれる途中のコレステロールであり、血液中のLDLコレステロールが高すぎると、コレステロールが血管の壁に取り込まれて動脈硬化が進みやすくなります。このため、LDLコレステロールは「悪玉コレステロール」とも呼ばれます。

HDLコレステロールは、組織に余っていたコレステロールがHDLに回収されて肝臓に戻る途中のコレステロールです。このためHDLコレステロールは「善玉コレステロール」と呼ばれます。この値が低いと血管の壁にたまったコレステロールを引き抜いて肝臓に戻すことができなくなり、動脈硬化が進みやすくなります。

食事からのエネルギーのうち、使いきれずに余ったものは、肝臓でトリグリセライド(中性脂肪)に変えられ、血液中を移動し、皮下脂肪や内臓脂肪に蓄えられます。したがって、食べ過ぎ、飲み過ぎや運動不足でエネルギーがたくさん余ると、血液中のトリグリセライド(中性脂肪)の量が増え、高トリグリセライド(中性脂肪)血症が引き起こされることになります。トリグリセライド(中性脂肪)が高いと動脈硬化が進みやすくなると考えられ、極端に高くなると急性すい炎を引き起こす危険性もあります。

遺伝と生活習慣

脂質異常症には遺伝が関係するものがあります。とくに、「家族性高コレステロール血症」は、LDL受容体(肝臓にたくさん存在し、血液中のLDLコレステロールを引き込む働きをしています。このためLDL受容体が少ないと血液中のLDLコレステロール値が高くなります。)が生まれつき少ないために発病するもので、日本人の500人に1人程度がこのタイプであることが分かっています。そのほかにも遺伝によってコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)が高くなる「家族性III型高脂血症」もあります。これらのタイプの方は、生活習慣とは関係なく、脂質異常症になりやすいと考えられています。

一方、このようなはっきりとした遺伝とは別に、例えば家族に脂質異常症の方がいるなど、脂質異常症になりやすい体質の方もいます。しかし、食事や運動などに気をつければ脂質異常症にならないようにすることができます。逆に、脂質異常症になりやすい体質がなくても、生活習慣の問題が大きければ脂質異常症になることもあります。メタボリックシンドロームは生活習慣の問題によって起こり、脂質異常症にも繋がる代表的な状態です。こうしたことから脂質異常症は生活習慣病のひとつに挙げられているのです。

なお、生活習慣の変化などにより、近年、脂質異常症などの生活習慣病の予備軍の方が増えてきています。このような予備軍の方を、早く見つけ、生活習慣を改善することで病気になることを防ぐことを目的として2008年4月より、メタボリックシンドロームに注目した特定健康診査・特定保健指導が始まりました